「農業現場でのIT活用。大切なのは人の育成!」
有限会社 鍋八農産

トヨタ自動車の農業IT管理ツール「豊作計画」を導入し、効率的かつ安定した農業経営を実践する(有)鍋八農産。「ITを活用するのは人。一番大切なのは、社員の意識改革なんです」と仰る 八木社長に、「豊作計画」導入の経緯や活用状況について伺いました。

△八木輝治社長(46)
(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」38号/2017年春号より転載)

農業現場でのIT活用。大切なのは人の育成!

―まず、御社について教えてください。
 当社は稲作を中心にした農業法人です。作業委託や全面委託が多く、地域農業を維持する機能も担っていると言えます。販路はスーパーや中食・外食業者などで、ほぼ全量を自社で捌いています。そのほか、麦や大豆の生産、米を原料にした加工品販売、等もしています。

―トヨタ自動車(以下、トヨタ)と連携を始めたきっかけを教えてください。
 トヨタとはH23年から連携していますが、最初は愛知県稲作経営者会議 会長からの紹介でした。私は20歳(H3年)で家業である当社に就職しましたが、作業が非効率で毎日夜遅くまで働き、加えて休みがないという仕事形態が嫌でした。そのため、35歳(H18年)で経営権を得て社長になってからは「働き方を変えたい」と思っていました。その意識を持っていたことと、トヨタも当社に興味を持っていただいたことから連携が始まりました。当初はここまで劇的に改善するとは想像していませんでしたが(笑)。

―どのような点が変わりましたか?
 一番は、ムダを省くことで効率が上がったことです。トヨタ式に言うと「カイゼン」ですね。
 「豊作計画」でできることは、作業工程の作成・管理、報告書の自動作成、コスト算出などです。そこで必要となるのは日々のデータですが、その大半は社員各々が現場からスマートフォンに入力したデータです。例えば田んぼ作業には、代掻き、田植え、防除、水管理、稲刈りなどの作業がありますが、社員は各圃場で作業開始前と終了時にスマホに入力します。すると地図上に打たれたピンの色が自動的に変化し、「この田んぼでは○○の作業が終了した」ということが 一目瞭然で分かります。当社は田んぼが2000枚ほどあり、遠い圃場は事務所から20㎞も離れているので、各圃場の状況がリアルタイムに共有できるようになったのは大きな変革です。

―データ入力は社員さんがされますが、抵抗はありませんでしたか?
 最初の頃は「面倒くさい」とはっきり言われていましたね(笑)。スマホに慣れない社員もいましたし、現場へ行くと“すぐに作業を始めたい”という気持ちになり入力せず作業を開始するというミスも多くありました。しかし、それだと正確なデータが取れません。そこで、社員全員を集めて、何のために「豊作計画」を導入しているのかをプレゼンしたり、実際に集積したデータを見せることで、意識付けをしました。「豊作計画」では 一反あたりの作業時間や、使った資材の原価なども表示できます。このような「見える化」により、作業効率のアップや資材等のムダが減っただけでなく、各々のモチベーション向上にも繋がりました。
 結局、いくらITを導入しても、現場で働いているのは“人”です。だからこそ一番大切なのは、社員の育成や意識改革なんです。そこが変わらなければ何も変わりません。
 それと、このシステムを作り上げるために、最初の約1年間はトヨタの担当者が当社に通い農業をしていました。「豊作計画」はまだ実証実験の段階ですが、トヨタも当社も本気で取り組んできたからこそ、得られた結果だと思います。

―現場ありきで進められた結果ですね!最後に、学生に一言お願いします。
 今までのやり方にこだわらず、新しい考えをどんどん出してほしいですね。経験やスキルは重要ですが、それがかえって邪魔をする場合もあり、経験者でないからこそ良いヒントを出せる場合もあります。当社社員は20~30代の非農家出身者が多いのですが、彼らから学ぶことも多くありますよ。チャネルが多いほど農業にも活かせると思うので、学生のうちに様々な情報を得たり異業種との繋がりを作っておくと良いと思います。

 
(左)デジタル化だけでなく、ホワイトボードなどを活用することで、アナログ面からもカイゼンを図っている。
(右)社員13名のうち、12名が20~30代の非農家出身者。県外から就職した若者も多い。


リンク

・有限会社 鍋八農産: http://nabe8.co.jp/


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