鳥獣害対策としての狩猟ビジネス

 田畑に現れ農産物を荒らす獣たち。その被害額は全国で172億円(平成28年度)に上ります。その対策として防護柵の設置やジビエ振興など様々な対策がありますが、最近は猟師を育成する動きも見られます。
 千葉県君津市で始まった「狩猟ビジネス学校」もその一つ。今回は、学校の目的や鳥獣被害の現状等について、君津市経済部農政課の岡本さんと、委託先である一般社団法人 猟協 猟師工房事業部の原田さんと澤田さんにお話を伺いました。
*写真:左から、澤田さん、原田さん、岡本さん

(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」44号/2018年秋号より転載)

鳥獣害対策としての狩猟ビジネス

―「狩猟ビジネス学校」を始めた経緯や背景を教えてください。

岡本さん
 君津市は鳥獣害による農産物被害が年間4900万円を超えており、被害軽減のため年間5000頭以上の獣を捕獲していますが、捕獲従事者のうち7割以上が60歳以上です。鳥獣害を全て無くすことは不可能ですが、被害を軽減させるためにも継続的な捕獲が必要であり、そのためにも若い世代の担い手育成が重要となってきます。そこで、この学校を始めました。

原田さん
 当社の本社は埼玉県にありますが、君津市にジビエの加工場を持っていること、狩猟と加工の技術を持ったスタッフがいること、担い手育成に取組んでいること等から一緒に取組む事となりました。ここまで熱心に、かつユニークな取組みをされている自治体は少ないと思いますよ。

―そうなのですね!具体的にどのような講義をされているのですか?


 全12回の講座で、罠のかけ方、シカ等の解体、カフェ運営など、狩猟から加工、食までを一貫して学べる構成になっています。受講生の年齢層は20~60代と幅広いですね。なかには「趣味の狩猟を教える学校」だと誤解されている方もいますが、私たちがしているのは「狩猟をビジネスに変えるための学校」です。

岡本さん
 ビジネスの観点から狩猟を学べる機会はあまりないと思います。ニーズも高く、すぐ定員に達しましたよ。



原田さん
 「産業」まで高めるには、個体数の関係や現時点で狩猟関連で動くお金の額を考えると、不可能かと思います。ただ、狩猟から飲食業まで一貫経営をされている方もいらっしゃいますし、狩猟・林業・農業といった業種を組み合わせることで、ビジネスの可能性は広がります。

岡本さん
 業種の観点でみると、狩猟に限らず農業も林業も人が減っています。人が減って農地や山林が荒れると、そこが獣の住処になり個体数が増え、更に田畑を荒らすという悪循環が生まれます。

澤田さん
 最近は人間に慣れてきたのか日中でもイノシシが出てきていますし、小学校のすぐ近くまで来たという報告もあります。その出没場所には箱わなを仕掛けていますが、捕まえる前に子ども達が襲われないか危惧しています。

△箱わな。中に米ヌカを入れてイノシシをおびき寄せる。

―それは心配ですね…。お話を伺い、鳥獣害対策は農業・林業・生活など様々な分野と密接に関わることが分かりました。最後に今後の目標を教えてください!

岡本さん
 当市ではこの先も捕獲従事者を確保したいと考えています。やはり人がいないと何も始まらないと思うので。この学校は地方創生交付金を活用していますが、その財源が切れても育成を継続できるよう仕組みを作りたいと考えています。

原田さん
 鳥獣害対策は、君津市さんと当社のように、官民一体で取組むことが重要だと思います。私たちも狩猟の教育事業は継続していこうと思いますし、将来的には専門学校を作って、担い手をどんどん増やしていきたいと思います!

ジビエとは?

日本で有名なジビエといえば、捕獲数や被害の多いシカ、イノシシが挙げられますが、実は狩猟の対象となっている野生鳥獣は全てジビエとして定義されており、野ウサギ、山鳩、真鴨、小鴨、尾長鴨、カルガモ、キジ、コジュケイ、最近話題のカラス、 またフランスでは狩猟禁止で貴重なタシギ等の鳥類や、ヌートリア、ハクビシンといった珍しい動物も含まれます。

参考

・平成29年度 食料・農業・農村白書(農林水産省)
・「ジビエとは何か?最近注目のジビエを解説!」日本ジビエ振興協会(http://www.gibier.or.jp/gibier/

公式サイト

 狩猟ビジネス学校 ⇒ https://www.city.kimitsu.lg.jp/soshiki/25/12744.html
 一般社団法人 猟協 ⇒ https://hunters-cooperative.jp/


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