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農業界で働く方々の声を聞く


東京でトマトを作りたい!~新規就農in Tokyo~
Neighbor's Farm(ネイバーズファーム) 川名 桂

 「東京でトマトを作りたい!」「お客様と直接やりとりした農業をしたい!」との想いから、2019年3月に地元・東京都で新規就農した川名桂さん(28)。
 本格的なトマト生産は来年(2021年)から始まりますが、その間は季節の野菜を生産し軒先や直売所等にて直接販売をされています。 今回は、新規就農のきっかけや農地確保の道のり、トマト生産に向けた準備について、など様々なお話を伺いました! (取材:2020年9月)

プロフィール


● 川名 桂(かわな けい)
 東京大学 農学部 卒業後、千葉県の大規模農業法人へ就職。その法人の新規事業で、福井県でのオランダ型トマトハウスの新規立ち上げに関わる。働く中で、「直接お客様と接する農業がしたい」「地元・東京都で農業をしたい」と考え始め、3年間務めた法人を退職。東京都に戻り、新規就農に向けた準備を始める。
 準備期間は延べ2年間。その間に「生産緑地法」が改正されたことや理解のある地主さんとの出会いにより、2019年3月に東京都日野市にて新規就農。生産緑地地区での新規就農者第1号になる。現在、約2反の農地にて季節の野菜を生産しながら、トマトハウスの工事を進めている。


東京で新規就農したい!

―はじめに、規就農しようと決意されたきっかけを教えてください。
 学生時代から心のどこかで「いつかは自分の力で事業がしたい」という想いがありました。卒業後は農業法人に就職したのですが、その時も心のどこかで「農業で独立できる力をつけたい」と思っていました。ただその時は、「何年後に独立してこんな農業をする」という具体的なことまでは考えていませんでした。
 就職先では新規事業の一つとして、数ヘクタール規模のトマトハウスの立ち上げに携わり、トマトの生産管理や人材管理、採用、営業補助、など農場運営全般にも携わりました。その法人は規模が大きいこともあり生産・流通・販売がきっちり分かれていたのですが、働くうちにだんだんと「直接お客様と接する農業がしたい」「自分の力を試したい」と思うようになりました。ちょうどその頃テレビで「東京でも農業ができる」ということを知り、調べていくうちに「自分でする農業って楽しそう!東京で農業がしたい!」と思うようになりました。
 そして3年間勤めた農業法人を退職し、東京へ戻りました。戻ってからは、都内の農家さんに見学へ行ったり、SNSで情報収集をしたり、東京都農業会議の方にお世話になりながら、具体的な就農のイメージを作っていきました。その中で「新規就農をするには様々な手続きが必要」ということや、様々な補助制度があることも知りました。

―よく「新規就農には覚悟が必要だ」と言われますが、川名さんも覚悟して臨まれましたか?
 「自分でする農業って楽しそう!」という想いと、法人での事業立ち上げの過程で本当にたくさんの失敗や苦労を経験して、どんなに大きな壁にぶちあたっても考え抜けば必ず解決方法はあるし、そういった困難や苦しみを乗り越えていくこと自体に楽しさややりがいを見出すようになっていたので、重い覚悟は特になかったですね。

農地を借りるまでの長い道のり

―川名さんは非農家とのことですが、農地はどのようにして借りられましたか?
 都会の農地は「生産緑地法」や様々な制度によって簡単に借りられなかったのですが、 ちょうど農地を探している頃「都市農地貸借法」(※)が制定され、就農を希望する地域の農地も借りられる状況になったので「その波に乗ろう!」と思いました。
 最初はあらゆる人に「無理だ」と言われ協力してくれる人もあまりいませんでしたが、 それでも都内で開催される農業の集まりに顔を出しては様々な人に「東京で農業がしたい」と言い続けたり、 都内の新規就農サポートされている東京都農業会議の松澤さんにご協力いただく中で、農地を貸していただけるお話が何件か出てきました。 しかし、条件等が合わずなかなか決められませんでした。
 「条件等が合わない」とはいえ、次のチャンスを待っていれば必ず良い農地に出会えるかと言えば、その保証はどこにもありません。 農地を決めてしまったら後には引けないので、どのタイミングで決めたら良いかずっと悩み葛藤していました。 そんな時、たまたま希望していた日野市の農地を借りることができました。地主さんもとても理解のある方で、本当に良い出会いとタイミングでした。

(※)都市農地貸借法
正式名は「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」。
「市街化区域内の農地のうち、生産緑地の貸借が安心して行える新たな仕組みが2018年9月1日にスタートしました」 (引用: 農林水産省「都市農地の貸借がしやすくなります」


△就農1年目は、借りられた農地で様々な露地野菜を栽培。


―情報収集するにあたり東京都農業会議の松澤さんのお力を借りたとのことですが、どのようなサポートを受けられたのですか?
 松澤さんは長らく新規就農者のサポートをされています。都内の農家さんからの信頼も高く、農地の情報も集まってきますし、地主さんとの話し合いの際は同行いただくこともありました。 私一人の力では農地は借りられなかったと思います。
 その後、農地を借りる段階になった際にも、生産緑地の農地を借りるのは私が初めてだったこともあり契約書の雛形等もありませんでしたが、松澤さんが全面的にサポートしてくださり作成することができました。 こうした取り組みの一つ一つが、これから生産緑地で新規就農する方の土台にもなっていくと思います。


資金調達と投資にあたっての心持ち

―資金調達はどのようにされたのですか?
 東京都にも、新規就農者に対する補助金があります。 トマトのハウスはこれから建つのですが、東京都や日野市の補助金を活用できたので自己負担金の総額はかなり抑えられました。

―そうなのですね!補助金が出るにしてもたくさんお金がかかると思いますが、背中を押された理由はありましたか?
 そうですね。たしかに補助金が出ると言っても自己資金は必要ですが、補助率が大きいというのはかなり安心感がありました。
 そのほか、日本政策金融公庫の融資の一つに「青年等就農資金」があり、それも活用できることになりました。 「青年等就農資金」は、無利子・無担保・無保証人で、5年据え置きという、新規就農者にやさしい融資です。
 あとは東京で成功しているトマト農家が結構いるというのも背中を押された一つの理由です。 実は就農準備中の約2年間、都内のトマト農家さんで研修(バイト)をしていたのですが、その農家さん含め同じくらいの規模で稼いでいる人が何人かいらっしゃって、そういう人を間近で見ていると“私にもできるかも”と思えるようになりました。
 何より、農業は楽しいし好きなことなので、大丈夫!と思っています。


就農1年目は時間との勝負!

―就農して2年目のいまハウスの建設が始まったとのことですが、1年目に建てることはできなかったのですか?
 全て自己資金で賄うなら建てられましたが、補助金を活用するためには時間が必要でした。
 補助金をもらうためにはまず「認定新規就農者」にならないといけないのですが、行政ではその認定を年度ごとに行うので、まず1年目に「認定新規就農者」になり、その上で補助金を申請しました。
 とはいえ、1年目に何もしないというわけにはいかないので、ハウス建設が始まるまでの間、自己資金でできる露地栽培を始めました。これが、やってみると楽しくて!(笑)。 1年間のためだけに露地栽培を始めることは周りからは反対されていましたが、売上がゼロだったら補助金の審査も通っていなかったかもしれないですし、信用も失われていたと思うので、やって良かったと思いました。

―露地栽培の技術はどこで身につけられたのですか?
 研修先(バイト先)のトマト農家さんから教わりました。 その農家さんはハウス栽培がメインなので露地栽培はそんなに多くはされていないのですが、少しずつ教えてもらいそこで覚えた野菜から作り始めました。


△栽培する野菜の種類も増えていきました!

―1年目に作る作物はうまくいかないことも多いかと思われるのですが、いかがでしたか?
 それが、思ったより上手くいきました!適期適作、旬の時期に作るとけっこう上手くいくと思います。 庭先販売や直売所での販売が中心だったのですが、規格も気にしなくて良いですし、B品や傷ものは少し値段を下げて販売するなど工夫をして売りました。 それ以外の、虫食いがひどかったり葉がとけているものなど、どうしても売れないものは土に還しましたが、そのような野菜はほぼ出なかったですね。

―就農1年目に想定外だったことはありましたか?
 労働力の分配が難しかったですね。 具体的には、もともと1年目の露地栽培はあまり手間をかけないつもりだったので収入のために研修先のトマト農家で週3日バイトをしていたのですが、畑とバイトの両立が難しかったです。
 例えば、畑は天候や気温によって作業しないといけない日やタイミングが変わりますが、研修先のバイトは時間も曜日も決まっています。 研修先の方は理解のある方で「うちに余力があるときにそっちの畑が大変だったら出勤の調整するよ」と言われていたのですが、 同じ地域なので忙しい時や作業したい日は重なるんですよね。 それに加え、打ち合わせやハウス建設のための資材集め、取引関係など様々なことが重なり、ピーク時は朝4時から夜10時頃まで仕事をしていました。
 そんなことが続き、ちょっと燃え尽きてしまって、自分の畑に作付けができず、秋はヒマになりましたね(汗)。時間と労働力の配分は本当に難しかったです。


△露地栽培の様子

現在のお仕事

―畑作業以外に事務作業等もあるかと思うのですが、いつやっていらっしゃるのですか?1日のスケジュールを教えてください!
 1日のスケジュールは季節によって変わりますね。 例えば、夏は暑すぎて昼間外に出られないので外での作業は朝6時頃から10時頃までに終わらせて、その後は家の中で事務作業等をしていました。 逆に冬は朝早い時間帯だと霜がおりて作業ができないので、朝9時頃から始めて16時頃には終わらせて、その後1~2時間ほど事務作業をしていました。

―生産以外のお仕事の内容を具体的に教えていただけますか?
 毎日のことだと、売り上げの管理や請求書の発行など事務仕事が多いですね。 あとは、売り場用のPOPを作ったり、できるだけお客さんと直接やりとりしたいのでSNSを更新するなどしています。 このほか、今は落ち着きましたが、夜な夜な事業計画を作ったり、ハウスの建設に向けた打ち合わせも結構ありました。


△庭先で野菜を売る川名さん 後ろにあるのは野菜の自動販売機

将来のこと

―これから生産するトマトは、どのような形で販売される予定ですか?
 理想は、個人の直売です。直売だけで1,000万円ぐらい売ることが目標です。 ただ、最初から全てを直売することは難しいと思うので、そこを目指しつつも、仲卸さんや直売所などに販売する予定です。

―最後に、将来の展望を教えてください!
 一番近い目標は、東京都での新規就農の1つのモデルケースを作ることです。 トマト生産が始まれば雇用もしようと思っていますし、経営的にも成り立たせていきたいと思っています。
 それと、たまに「こういう農地があるけどやってみない?」というお話をいただくこともあります。 立地的な問題もあり今は引き受けることが難しいのですが、将来的には私の農園で研修をした人がその農地を引き受けていき、未来に農地が残っていけばいいなと思っています。

―壮大な目標ですね!
 実際のところは、その場その場の出会いと、目の前にある選択肢を選んでるだけなんですけどね。
 それに正直なところ、5年後・10年後にこの町がどうなっているのか想像がつきませんが、その場その場で町も自分も楽しい形になっていけばいいなと思っています。

リンク

Neighbor's Farm(ネイバーズファーム)
https://www.neighborsfarm.com/

*記事中の写真はご提供いただきました。


※記載情報は取材当時のものです。
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