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農業関連

廃棄野菜がクレヨンに!?デザインと農業の融合

“廃棄野菜からクレヨンができる!?”
これまで農業について学んできた中でも初めて聞いた話に興味を持った私は、“おやさいクレヨン”についてもっと知りたいと思い、製造・販売されている mizuiro株式会社 代表 木村尚子さんに、起業のきっかけから“おやさいクレヨン”の製作過程、今後の目標についてお話を伺いました。

(取材:2017/7/6、記者・堀内|掲載:2017/8/30)

農業×異業種


―廃棄野菜というと、形が曲がっている、大きさが小さすぎるなど、規格外の野菜をイメージしますが、実際にはどういったものを使用されているのですか?
 原料の多くは、加工場から出る野菜クズを使用しています。例えば、原料の一つに長芋がありますが、青森県は長芋の産地であり、とろろ製造等の加工場はほぼ一年中稼働しています。そこでは皮の部分が毎日約1トンも出るそうなのですが、通常それらは産業廃棄物として費用をかけて処分しています。そのようにお金をかけて廃棄される皮をパウダーにしてクレヨンの原料にしています。
 長芋以外にも、ごぼう茶の出がらしや、カシスジュースの絞りかすなども使用してます。実は青森県はカシスの生産量が日本一なんですよ!

―そうなのですね!青森県はリンゴのイメージが強いのですが、カシスも日本一とは知りませんでした…。加えて、原料となる廃棄野菜は農場から出るものを使用されていると思っていましたので驚きました。

 最初は県の方に相談に行き、野菜の出荷や加工場をされている業者さんをご紹介いただきました。
 また、そのつながりで県内の農家さんのところへ一緒に連れて行ったいただいたのですが、畑で廃棄されている野菜が沢山あることに驚きました。廃棄に頭を悩ませる農家さんの声や、畑からでる廃棄の量に大変な驚きを感じ、“それらを集めてクレヨンにしよう”と考えつきました。

―木村さんご自身は、広告関係にお勤め後、『親子で楽しめる時間をデザインする』という理念のもと2012年に起業されましたが、それまでは農業とのつながりはなかったのですか?

 親戚はリンゴ農家なので小さい頃からリンゴ摘みに行ったりはしていましたが、青森県は農業や漁業が盛んな地域なので、どちらかと言えば農業は特別なものではなく当たり前の存在でした。しかし起業するにあたり「青森県の魅力をPRしていきたい」という想いもあったので、青森県の良さである野菜や果物が美味しい・水がきれいといった部分を元にした何かを生み出していきたいという考えになっていきました。
 加えて、起業する前に県内の藍染展へ行ったのですが、自然の色で染めた、機械的でなく数値化されていない色の奥深や美しさに感銘を受けました。もともと絵を描くことや文房具が好きだったので、藍染の青が自然の色であるなら、野菜や果物の色で絵を描く道具や文房具を作れたらいいなとも思っていました。

―様々なきっかけから実現した商品なのですね。実際に農家さんとも接する機会があるとのことですが、農家さんと直接取引をされることもあるのですか?
 今は県内の農家さん5軒から各2~3種類ずつ野菜を提供してもらい、全部で10色のクレヨンを製造・販売しています。農家さんにはわざわざ捨てるところを乾燥・保存してもらう手間がかかるので、微々たる売り上げだとは思うのですが買い取りをさせて頂いております。
 原料をトータルしても、現状では廃棄野菜の削減を解消するほどの量を使用できていないところが非常に残念ではあるのですが、少しずついろんな商品を増やしていけばと思っていますし、先ほどのカシスのように、あまり知られていない青森県の農産物の魅力についてもクレヨンを通して発信していきたいと考えています。

―実際に“おやさいクレヨン”を使用されいてる方の声を教えてください!

 子供たちは“これ食べられるの?”とか“なんで野菜がクレヨンになってるの?”とか、単に絵を描くだけじゃなくて興味をもって使ってくれています(※注意:おやさいクレヨンは口に入れても安全ですが食べられません)。あと稀に、時期にもよりますが、ネギなど香りの強いものはクレヨンに香りが残っていることもありますよ。クレヨンのできた背景や、野菜がどこからきたか、という話を家族でしながら、自然に食べ物に関して考えてもらう時間になれば、食育の一環にもなるかなと思います。
 こんな風に、ものの良さをよりよく伝えて、それをユーザーさんが受け取って、何か幸福になったり、ためになったり、そうゆうふうに伝わってる様子が見えた時に、ものづくりの喜びややりがいを感じますね。“おやさいクレヨン”は値段は決して安くありませんが、「安心して使えるものを使いたいのでこうゆう商品があってよかった」という声は多く耳にします。おじいちゃん・おばあちゃんがお孫さんにギフトで贈ったり、ご友人の出産祝いといったプレゼントとして使われる方も多くいらっしゃいます。廃棄野菜が“おやさいクレヨン”になり、様々な家庭で使われていることを知ったときはとても嬉しいですし、自分が作ったものがそうゆう風に使われていることはすごく不思議でもあります。会社の理念は「親子で楽しめる時間をデザインする」ですが、今後も心に残るものづくりをしていきたいと考えています。

―この事業を始めて、木村さんご自身も農業や野菜に対する意識は変わりましたか?

 変わりましたね。小さい頃から身近にあった農業ですが、農家さんがどのような方かというのは存じ上げませんでした。しかし事業を通し、いろんな方にお会いして作物に対する思いを伺っていると、「こんなにたくさんの手間暇と心を込めて作っているものを、いつもいただいているんだな」と思えるようになりました。なんと言いますか、農家さんの顔や想いが見えてくるとスーパーに並んでいる農産物も違ったものに見えてくるような、、、そういう感覚もすごく大事なことだと感じています。

―農業とデザインは一見関係のない分野にも思えますが、お話を伺い、融合することで両方の魅力が増していくと感じました。

 「農業×デザイン」が生み出す可能性はとても大きいと思います。すごく美味しくて品質も確かな農作物が出来上がったときに、それを伝えることを補助する役割がやはりデザイン力だと感じています。農業とデザインが融合することで地域の良さも伝えられると思いますし、それまで埋もれいてた商品の魅力も見いだせると思います。そうすることで価値やお金の循環が生まれ、結果的に農家さんにも還元できれば理想的です。

―最後に、「農業×デザイン」に興味のある学生に一言お願いします!
 私は、好きなことを仕事にすることは幸せなことだと思っています。もちろん辛いこともあるかと思いますが、やりがいもありますし、挑戦してほしいと思います。そして新しい農業スタイルを発信し、若い力で農業のイメージをどんどん変えていってほしいなと思います。

*取材はスカイプにて実施いたしました。
*写真は木村様よりご提供いただきました。


リンク

 おやさいクレヨン
⇒ http://vegetabo.com/


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