「価格決定権を握り、産地を守る! 」
JAにしうわ真穴柑橘共同選果部

「子供の世代、孫の世代まで、良い販売ができる基礎を作りたい」
 そう語るのは、JAにしうわ真穴柑橘共同選果部会(以下、真穴共選)共選長の渡邊勇夫さん。今回は産地側が取り組む流通・販売について、共選長の渡邊さん、副共選長の大下さん・井上さん、事務所長の緒方さんにお話を伺いました。

☆写真:共選長の渡邊さん(中央)と、副共選長の大下さん(左)と井上さん(右)。お三方とも農家。
山を切り開き築かれた段々畑からは、おだやかな海が一望できる。

(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」36号/2016年秋号より転載)


価格決定権を握り、産地を守る!

―今回は「農業を支える流通」をテーマにお話を伺いたいのですが、まずは、みかんの特徴と流通形態を教えてください。

渡邊:
 当部会が扱う「真穴みかん」は、当地区180戸の農家が生産する温州みかんのうち、当部会が集荷し、非破壊光センサー等を用いて選果し、糖度・大きさ・見た目など厳しい基準をクリアしたみかんに対して付けるブランド名です。収穫期(農繁期)の11月~12月は休みなく集荷・選果・出荷し、その出荷量は毎日約200トンに上ります。
 出荷形態は、市場出荷と個人のお客様への直販が大きな2本柱です。直販に関しては、規模が大きくなり業務が回らなくなってきたので別会社を設立しました(⇒詳細は後半に掲載している「旬香物産」をご参照ください)。


△収穫直前のみかん(2013年11月撮影)。
真穴地区で温州みかん栽培が本格的に始まったのは明治40年頃。昭和39年には農産物の最高峰・天皇杯を柑橘類で初めて受賞するなど、100年以上続く国内有数のみかん産地の一つです。

―市場出荷だと価格は市場側(買い手)によって決められますよね?

渡邊:
 当部会は「相対売り」が基本なので事前に概ねの価格は決まっています。具体的には、事前に卸売業者・小売業者・当部会の3社で話し合い、次シーズンの取引量や価格について決定します。

緒方:
 真穴みかんを「せり」で取引をしているのは地元の市場だけですね。昨年実績では、真穴みかんは74%が市場出荷ですが、そのほとんどが関東圏の市場なので、ほぼ「相対売り」になります。

渡邊:
 「相対売り」なので『相場が崩れた』からと言って大きな影響は受けません。むしろ、『真穴みかんの価格が崩れた』となれば全国の温州みかんの相場が崩れるというくらい影響力があり、それだけ最高級みかんを作る産地として認められています。

―すごい影響力ですね…!取引の際はどのよな点に気を付けていますか?

渡邊:
 メーカー(農家)側が価格決定権を握る。例えば、買い手側から「これだけ大量に買うのだから値下げしてほしい」と要望されたとしても、安易に「はい」とは答えません。みかんの品質を担保する分、適正価格で取引いただかないと産地を守れなくなるので、妥協してはいけません。価格を維持するにはテクニックも必要ですが、何より、売り手も買い手もWin-Winであることが重要です。
 あと大切なのは、「今年の売り上げ」のみを考えるのではなく、「子供の世代、孫の世代までを考えた基盤を作る」こと。私は就農してから25年経ちますが、その間に社会インフラは大きく変わりました。インターネットが普及し、今や畑にいてもスマホでショッピングができます。共選長になってからは4年目ですが、時代の変化に対応し、先が読める人材や組織を作ることが重要だと思います。そのためには改革が必要です。価格決定権を握ることはその一つでもあるのです。

―渡邊さんも農家なのですか?

渡邊:
 そうです。当部会の役員は地区の農家から選出されます。ここにいる副共選長の二人も農家ですよ。これまで生産に注力すれば良かった農家が役員に選ばれて180戸の農家の生計を支える営業マンになる。その責任はとても大きい。みかん生産のことだけ知っていてもこの仕事はできないので、流通・販売をはじめ、とにかく幅広い知識が必要です。

― 一括りに「流通・販売」と言っても、経営体によって考え方や手法は大きく変わるのですね。ところで販売にはクレームがつきものだと思いますが、どのように対応されていますか?

緒方:
 当部会が市場出荷をする場合、販売先は主に大手量販店です。つまり、消費者に「真穴みかん」を販売するのはその大手量販店なので、クレームが発生した場合は、主にその大手量販店が対応されます。
 ただ、みかんの箱には当部会の電話番号が書かれているので、直接こちらに電話がかかってくることもあります。内容としては「買ったみかんが傷んでいる」というのが一番多いのですが、ここで重要なのは、その流通過程をしっかり確認すること。それと言うのが、ひょっとしたら途中で運送会社が落としたのかもしれないし、そもそもそのみかんは「真穴みかん」ではないのかもしれないなど、様々なことが考えられるので、まずは事実確認が重要です。

(右写真:事務所長の緒方さん。手にしているのは「真穴みかん」の加工品紹介パネル)

―ここでも「流通」が大きなポイントになるのですね。他に課題はありますか?

緒方:
 流通には直接関係しませんが、収穫期の人手不足や選果作業員の人手不足は課題ですね。

井上:
 その解決策の一つとして、収穫作業を手伝ってくれる「みかんアルバイター」を募集しています。この地区の農家は全て家族経営体ですが、家族だけではどうしても手が足りません。せっかく良いみかんを作っても収穫できないとだめになってしまうので、アルバイターの方が来てくれると大変助かります。アルバイターは県外の方が多く、毎年200名近い方が参加されますが、中にはこの地で就農される方もいますよ。(⇒新規就農者のインタビュー記事を読む)。

渡邊:
 選果作業員も独自に募集しており、ピーク時には100名を超える方が選果場で働いています。最新鋭の機械も導入していますが、やはり人の感覚や経験値は重要です。その経験値を可視化し、未経験者でも同等に働くことができる環境を整えることも、我々の重要な仕事の一つです。

大下:
 加えて、アルバイターや選果作業員として参加した人が、みかん農家を就職先の一つに考えるきっかけになれば嬉しいです。実は、私は新潟県の非農家出身ですが、この地域とみかんに魅力を感じ、大学卒業後ここへ移住し就農しました。就農希望者には農地探しも手伝いますので、ぜひご連絡ください!

―最後に今後の目標をお願いします!

渡邊:
 確固たる地位と、ゆるぎない価格を確立する。そして、日本一の産地を目指す!これに尽きますね。



△取材に伺った8月下旬は、みかんはまだまだ青く小さかった。この時期は余分な果実を間引きする摘果作業が行われます。(写真左:摘果前のみかん/右:摘果と無駄な葉を取る作業を教っているところ)


丁寧な対応で根強いファンづくり! 旬香物産株式会社

 真穴共選の直販部門が独立し5年前に設立された旬香物産(株)。
「お客様との会話を大切にしています」と話す井上社長に、直販のポイントを伺いました。
(右写真: 井上社長よりDMのポイントを伺う学生スタッフ)

―貴社は「真穴みかん」の個人直販をされている会社だと伺いました。
 そうです、「真穴みかん」の生果やジュース等の加工品を販売しています。他に、近隣の三崎共選さんと連携し、収穫時期が「真穴みかん」よりも遅い「伊予柑」や「ポンカン」といった柑橘類(中晩柑)の生果や加工品を販売しています。

―直販をするうえで大切にしていることは何ですか?
 口コミですね。当社ではネット通販を扱っていますが、それは一つの窓口であって、口コミで広がっていくことが何より大切だと思っています。そのためにも、お客様に満足度を上げていただくためにはどうすべきかを常に考えています。

―どのような工夫をされていますか?
 最も大切なことは、お客様からいただいたご注文を間違いなく処理してお届けすること。当たり前のことですが、1回1回を正確に積み重ねていくことが大切です。あと、しっかり会話をすること。例えば先日、ジュースを購入されたお客様から「最近雨がひどいから箱が濡れない工夫をしてほしい」とお電話をいただきましたが、「ビニールをかけて送ります」と返答しつつ「愛媛は全然雨が降らず困っていますが、皆さん工夫しながらみかん作っていますよ」とお話しました。当社のお客様は産地のことを気にかけてくださっている方が多いので、こうした世間話がとても重要です。その他、DMも 一新しました。料金別納の印をみかんマークにしたり、お客様に応じて封入するチラシの見せ方を変えたり、届いた時に感動していただける演出も大切にしています。

―今後の目標を教えてください!
真穴共選の農家さんが作ったみかんを良い形でお客様に届けていくのが当社の大きな役割です。今の顧客数は約1万人ですが、昨年よりもより多くのお客様にみかんを届けていきたいですね。


△封筒と両面印刷のチラシ。
封筒は、別納料金をみかん印に、中面をオレンジ色にして、みかんの雰囲気を出している。


リンク

 JAにしうわ真穴柑橘共同選果部会(真穴共選)
⇒ http://www.marumamikan.com/

 旬香物産株式会社
⇒ http://www.maanamikan.com/shop/


※記載情報は取材当時のものです。
※無断転用・転載・改変を禁止します。引用の際は、当社までご連絡ください。