株式会社モスファームすずなり 代表取締役社長 鈴木貴博

 モスバーガー直営型農場の『(株)モスファームすずなり』は、冬季レタスの安定供給や耕作放棄地の解消等を目的に2014年4月に設立され、旬の輝きを放ち続ける農業生産法人です。今回は、代表取締役社長 鈴木貴博(よしひろ)さんにお話を伺いました。
[写真:モスフードサービス佐藤さん(左)と、鈴木社長(右)]

(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」30号/2015年春号(3月発行)より転載)


「食を通じて人を幸せにしたい」

―御社は外食産業((株)モスフードサービス)と農業者((株)鈴生、鈴木農園)の出資により設立された会社ですが、どのような特徴がありますか?
 モスさんの凄いところは、最も出資額が大きいにも関わらず、農業経営の主導権を僕たち農業者に任せてくれている点です。会社の経営戦略については役員会等で一緒に考えていきますが、栽培管理はもちろん、販売の権限もこちらにあり、モスさん以外の取引先様への出荷もしています。それは、例えば全量出荷が義務となれば、モスさんの規定に沿わないレタスも出荷することとなり、お互いにロスが出るという物理的な問題の解決策でもあります。現場の運営を任されているので、凄くやりやすいですね。
 同時に、モスさんとは契約栽培になるため、収益が安定する一方、生産へのプレッシャーは今まで以上にかかります。その分、「もっとおいしいレタスを届けて、さらに、約束の出荷量も守ろう」という気持ちが強くなりますよ。

―なるほど。では鈴木さんにとって、モスさんはどのような存在ですか?
 そうですね・・・両親、ですね。そのくらい愛情がある会社で、様々な面で育てていただいています。僕にとって、例えようがないくらい、とても大きな存在です。

―契約栽培は、御社の設立前、2003年から始まったと聞きましたが、その頃から大きな存在でしたか?
 はい。その頃は家業の鈴木農園で農業をしていましたが、良いレタスが全く作れず、それでも諦めずに支えていただきました。それに、「お前はレタスを作っていると思ってるんだろ。そうでなく、育ってるレタスの手助けをするのが農家の仕事だ」と、作物との向き合い方を教えてくれた農業者に出会えたのも、モスさんが協力産地同士の「横のつながり」を与えてくれたおかげです。その言葉で僕の農業スタイルは少しずつ変わり、利益も出るようになりました。

―「横のつながり」、ですか?
 そうです。モスさんの協力産地の農業者が全員集まる意見交換会(HATAKEミーティング)や圃場での視察勉強会(アグリサミット)が定期的に実施され、他産地の方々とも繋がることが出来ます。
 それに、協力産地はみんな仲が良く、仲間意識がとても強いので、連携もしやすいですね。例えば、当社は11月から翌5月まで毎日100ケースのレタスを出荷していますが、前の産地から「早く終わりそうだ」と聞けば、少し早めに出荷を始めるなど臨機応変に対応しています。

―作物へのこだわりもありますか?
 当社の社訓は「おいしさを求めて」ですが、「おいしさ」の定義は味の評価ではありません。作る過程、つまり、種まきからお客様の口に入るまで手を抜かずに全力で作った野菜を「おいしい」と位置付けています。これが当社の自慢です。社員には、「我々は商品ではなく、想いを届けているんだ」と伝えています。
 それと同時に、「食を通じて人を幸せにしたい」と常に考えており、様々な事業にも取り組んでいます。当社設立のきっかけも、実は耕作放棄地の解消が大きな目的でした。耕作放棄地の解消と一言で言っても、多くの場合、農地が1ヶ所にまとまっておらず飛び地になっていたり、そもそも条件が悪くて手放された場合もあるので、作業的にはとても非効率です。ただ、「悪いところを良くして、地域貢献したい」という想いが強くあるので挑戦しています。

―先ほど、「食を通じて」というキーワードがありましたが、食べる側(消費者)に望むことはありますか?
 野菜を単なる「商品」として評価してほしくないですね。「きれい」とか「大きい」とか、そういったことだけでなく、それが作られるまでの過程や想いを買ってもらいたい。もちろん、僕たちはその情報をもっと伝えないといけないとも思います。
 ですが、そもそも食べたときに何か伝わるものでなくては、僕はその野菜はたいしたものではないと思っています。本当に魂こもった野菜は、料理をしているときも食べたときも「何か違う!」と思うはず。やはり、それくらいのオーラや魂のこもった野菜を作らないと。「ここのレタスじゃないと食べられない!」と言われるレベルまでもっていきたいですね。

―力強いお言葉ですね!最後に、学生へ向けて一言お願いします。
 日本の農業は、技術としては世界一。でもまだメーカーとして成り立っていないですね。「農業を産業へ」。これが僕の目標です。そこへ辿りついた時、日本農業が成功すると思います。この業界は古い体質ですが、その分ビジネスチャンスがあるので、若い子たちがどんどん新しい風をふかせて魅力ある産業にしていってほしいですね。難しい課題もたくさんありますが、夢もいっぱいありますよ!


△出資者の1つ(株)鈴生は、鈴木農園から独立した新規就農者サポート等を目的に2008年に設立された農業生産法人。社長は、モスファームすずなり社長と同じ鈴木貴博さん。「鈴生」の名付け親はモス社員。


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