【連載】 日本農業経営大学校 学生レポート


日本農業経営大学校では様々なプログラムがあります。今回はその一つである「先進農業経営体等視察研修」で訪れた農業法人(有)鍋八農産の視察の様子について、1年生の渡辺一真君がレポートします!


(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」43号/2018年夏号より転載)

「見える化」でつくる信頼の農業

 有限会社鍋八農産(所在地:愛知県弥富市鍋田町稲山393-15)は現在、弥富市を中心に北は愛西市、東は名古屋市に及ぶ合わせて150haの農地で作業を行っている。近年の農業従事者の高齢化や後継者不足により農地の維持がままならなくなり手放す事例も多い中、そういった農地での作業受託を行うことにより先祖代々より継承される農地を有効活用し、地域産業である農業を維持している。また米の生産以外にもその加工・販売事業も行っており、自社産の米を原料としていることから相場に左右されない価格を維持しつつ地域に密着した商品作りと複数店舗の情報発信を実現している。なお、社員が生産現場に携わり、パート従業者が主に加工と販売を担っている。

 今回の視察で強い印象を受けた注目すべき点は、企業活動全般においてトヨタのKAIZENに倣って取り入れたICT技術「豊作計画」による作業の「見える化」を行い、全従業員が情報を共有できる体制を築いていることである。作業受託が多いため、受託先(地主さん)との信頼関係を保つためにも作業は常に正確さを追求され慎重を期し、この「見える化」により複雑を極める作業も円滑に行えるようにしている。


△代表取締役 八木輝治さん(47歳)

 例えば、毎日の地図の作成等で煩雑さを極める日報入力作業の際に、誰がどこまでやったかを独自のエクセル表に色別で記録しておくことで作業者の誰もが開始・終了時刻、入力完了か途中かを一目でわかるようにして入力ミス等を防いでいることが挙げられる。また、鍋八農産の従業員はみな地域外から来ていて土地勘もないため、地図上で細かな圃場が集まっている箇所では担当区画の判別が困難で、かといって拡大すると今度は自分が全体のどこにいるかが分からなくなってしまうことが多々あったが、GPSを用いたデータをもとに地図における各圃場の受託別、作業終了・途中別に色分けしたり番号を割り振ることにより、各圃場でいつ誰が何を行ったかが分かるようになり、同時に自分の位置もGPSによりプロットされるため土地感覚をつかみやすくなっている。

 また「見える化」は、これらのデジタル技術を用いたものばかりではない。鍋八農産ではデジタル・アナログの双方を適切に組み合わせて効率化とムダの削減に努めている。例えば育苗計画を立ててそれを実行していく場合に、独自の「豊作計画」を用いて昨年度の実績や病害による損失分も考慮に入れて必要な苗の枚数を算出し、これにより生産を小ロットに分けることで苗余りといったムダをなくしている。同時に現場での各作業を誰がやったのかを名前入りマグネットで示し、ホワイトボードに貼ったものを事務室内に掲示することで誰もがそれを見て把握することができるようにし、ある区画の苗の生育上の問題等が生じた場合にいつ誰が担当したどの作業に起因するものなのかを判断する助けとなり、指導とその後の作業改善に役立てることができる。他にも複数ある乾燥機の稼働状況(誰がどれくらいの面積分の米を何番の機を使って乾燥させているのか)をパソコンでデータ化して管理するとともに、現場ではこのホワイトボードに載せて、その時その時で稼働状況を誰もが分かるようにして、それに合ったタイミングで手の空いた人が稲刈り及び乾燥を行うことで残留米をなくし残業時間も削減できるなど、効果は多岐に及んでいる。

 その他、各作業者の能力・経験値を段階評価した内容を掲示するボードを設けることで作業計画を行う際の人事配置の参考としたり、従業者別に育成が必要な分野の判断を容易にするほか、小集団活動により各人が意見を出し合うことで生産性向上と安全な場づくりの意識を高めるようにしている。こうした人事管理・人材育成は企業全体の改善・発展に欠かせないため特に力を入れている。

 以上、全体を通して思ったことは、生産技術そのものに加え、そこに従業者が関わる過程の一つ一つを重視し、他にはない分析・対応方法をとっていることであった。人間、経験はもちろんのこと各人の能力・適性にも差異があるため、従業者各人を大切にし、それぞれの長所を伸ばし難点を克服していくことは、本人のみならず周囲全体に良い影響をもたらしていくと筆者は痛感した。

リンク

 日本農業経営大学校
⇒ https://jaiam.afj.or.jp/


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