「農福連携」の神髄は、社会で働く人材の育成!
(株)あすファーム松島

「障害者をワーカーではなく、対等な人間として見ています。障害者が仕事を通して自分探しをしたり、社会で活躍する人材を育成することが当社の農福連携です」。そう話す(株)あすファーム松島 代表取締役副社長 新沼史智さんに、農福連携のコツや想いについて伺いました。


△新沼さん。前職のIT企業で経営コンサルに携わっていたことと協議会で農福連携に関わっていたことから副社長に就任。
(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」39号/2017年夏号より転載)

「農福連携」の神髄は、社会で働く人材の育成!

―農福連携に取り組まれたきっかけを教えてください。
 当社の設立とも関わるので簡単に説明すると、東日本大震災以降、ここ松島町では5つの協議会が立ち上がり、一次産業や観光業、福祉、二地域居住など地域の課題を解決するための様々な動きがありました。その後、協議会の解散が決まり、それら事業の継承を目的に、平成26年に当社が設立されました。農福連携は協議会での1つのテーマでもあり、重要な取組みであることから、当社の中心的な事業に位置付けています。

―現在、何名を雇用されていますか?
 社員は4名ですが全員健常者です。固定で通っている障害者は4名ですが、彼らは連携している社会福祉施設からインターンのような形で当社に来ています。

―障害者の方は雇用されていないのですね。意外に思いました…。
 それは、当社で働くことがゴールではなく、当社で働くことを学んだあと社会に出て働くことがゴールだからです。
 福祉の本来の目的は、「どうしたら社会に出られるか」。つまり、障害者の働ける可能性を伸ばして社会に出してあげることが重要であり、それこそが私たちが取り組む農福連携です。
 当社では設立以降20名以上の卒業生を輩出しましたが、大手企業で働いたり、福祉施設でピアカウンセラーとして働いている人もいますよ。

―社会に出るためのステップアップとして御社があるのですね。具体的に障害者の方はどのような仕事をされていますか?
 当社は野菜と米を生産していますが、苗を植える、肥料を運ぶ、出荷用の箱を作る、ネギを同じサイズにカットする、作業後に掃除をする、という風に作業を細分化したのち、一人ひとりの状況にあわせて仕事内容を調整しています。
 加えて大事なことは、障害の症状やその人の能力に合わせて手法を変えること。例えば、精神障害の場合は、体力のない方や昼夜逆転している方が多いので、農作業を通して体力作りや生活リズムを整えることから始めます。知的障害や発達障害の方の場合は、当社スタッフが仕事のやり方を見せて、それを覚えてもらい、繰り返し作業をすることで体に仕事の仕方を染み込ませていきます。
 また、どのタイプの障害者でもスローテンポな方が多いので、ゲーム性を持たせて速いペースで仕事をするクセを付けたり、「今日は1時間かかったから明日は50分でしようね」と言って意識付けをして仕事のスピードを速めていきます。

―能力を伸ばせるかどうかは指導者のスキルによって変わりそうですね。どのようなスキルが求められますか?
 「障害者だから」といって腫れ物に触るようなことを一切しないこと。そして、本人に考えさせること。たとえ「できませんでした。いやだ」と泣いても、「なんで出来なかったのかな?」と考えさせます。それまでは「いやだ」と泣けば許されていたことも、社会に出ると許してくれないじゃないですか。給料がほしいなら尚更です。辛い思いをして乗り越えるという経験が絶対的に足りない方が多いので、それらを経験させてあげることも社会に出るための訓練につながります。
 社会経験を積むという点では、会社まで自力で来られるかどうかも大きなポイントです。福祉関連事業だと送迎が当たり前ですが、一般企業はそうもいかないですよね。当社が駅前にあるのも、自分の足で仕事場まで行くための訓練につなげたいからです。

― 一つひとつの積み重ねが重要ですね。最後に、学生に一言お願いします!
 どんなことでも社会的背景を調べると面白いと思います。例えば「農福連携」も、農業と福祉の両輪が回らないと事業が成立しません。私はIT企業の前は養豚業で働いていたので農業の現状は身に染みて分かっていましたが、福祉は徹底的に勉強し、加えて福祉事業の実績も積み、その上で当社の経営に携わりました。取組みたい仕事と徹底的に向き合い、その上で新しいエッセンスを加えることで、面白い仕事ができると思いますよ!

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 株式会社あすファーム松島
⇒ http://asu-farm.com/


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