「生活の糧をつくるグローバルな仕事!」
株式会社サカタのタネ

 「必需品を扱う仕事って、とても魅力的」。
 種への熱いロマンを語ってくださったのは、日本で1位・2位を争う大手種苗メーカー、株式会社サカタのタネ 広報宣伝部 大無田龍一さん。種苗メーカーは世界中に幅広い市場を持ち、農業関係の職業としても人気の高い業種の一つですが、一体どのようなお仕事をされているのでしょうか?
☆右写真:大無田さん(右)と取材スタッフ(左)
(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」35号/2016年夏号より転載)

生活の糧をつくるグローバルな仕事!

―農業界における種苗メーカーの立ち位置について教えてください。
 私たち種苗メーカーは、種や苗という素材を扱う業界で、農業界では源流に位置します。

―事業について詳しく教えてください。
 大きくは、研究開発→種子生産→品質管理・物流管理→販売、に分かれます。
 研究開発とは新しい品種を作り出す仕事で、品種改良そのものです。品種改良とは、例えば「病気に強い」親と「味の良い」親をかけ合せて「病気に強くて味の良い」品種を作り出すように、両方の良い特徴を持った品種を生み出すことです。この種を「F1」(※1)と言います。特に日本には四季があり、南北に長いため気候も様々。植物には厳しい気候ですが、その方が研究開発には向いています。
 そして、その品種のタネを国内や世界各国の契約農家さんに採っていただくのが採種。当社では「生産部門」と呼んでいます。

―販売されている種は農家さんが作っているのですか?
 そうです、採種農家さんに委託しています。この方法は、どの種苗メーカーも基本的に一緒だと思います。

―なぜ国内だけでなく、海外でも種の生産をされているのですか?
 リスクヘッジのためです。1か所だと異常気象等があった場合に供給できない事態になりますから。特に日本は多湿のため採種には向いていません。なお、採種地等に関しては、種袋に国名などは書いていますが、それ以上は企業秘密です。
 種子に求められるのは、発芽率がよいなど、品質の高さです。そのため、採種農家さんには生産スキルの高さが求められますが、植え方や生産管理のノウハウについては、生産部門の社員が現場で指導します。海外出張も多いですよ。どの国でも農家さんとしっかりコミュニケーションをとって信頼関係を築くことが大切です。

―グローバルですね!
 そうですね。採種の次にくる物流も、世界各国に種を提供していくのでグローバルです。
 一方、販売についてはローカルです。例えばトマトだと、日本では生食がメインなので生で食べて美味しいトマトが求められますが、ヨーロッパ等では生食よりも加工に向く収量の多い品種が求められます。このように、地域の実情をくみ取っていく必要があります。もちろんそれは研究開発にも通じることなので、育種をするスタッフも海外出張が多いですね。

―新しい品種を作るのに、どれくらいの時間がかかりますか?
 大体10年です。ただ、当社には研究員がたくさんいますし、花と野菜をあわせて年間に数十種を発表しています。

―次々と新品種を生み出す御社ですが、種苗メーカーは農業界にどのような影響を与えていると思われますか?
 種苗メーカーと農家さんは一心同体のような部分があります。例えば、種苗メーカーがすごい品種を作っても、農家さんが作りづらかったり、作っても売れない品種だと、それはメーカー側の自己満足でしかありません。逆に、「味は良いけど病気に悩まされている」という品種に耐病性のある品種ができれば、収量アップや、農家さんの収入アップも期待できます。そういう意味で、一心同体です。
 また、種苗メーカーは種を安定供給する使命があります。例えば、当社の代表的な品種の一つに「アンデスメロン」がありますが、「今年は種がありません」となれば、その年は「アンデスメロン」を食べることができません。ブロッコリーに至っては、当社が世界の65%のシェアを持っています。品種によっては地域の特産になっているものもありますし、種苗は食文化に根付いた産業とも言えますね。

―今後の展望を教えてください。
 良い品種を作り、農家さんに安定供給をしながら、国内はもちろん、グローバルに業績を拡大していきたいと思います。

―最後に、学生に一言お願いします!
 種苗はものすごく重要な商品です。加えて、上流から下流まで農業の全体像を見やすい産業だと思うので、大きな視点をもって農業界で働きたい方には良い職業だと思います。世界まで見られますからね!種苗にはロマンが詰まっています。ぜひそれを感じてみてください。

(※1)F1品種

 異なる性質を持つ品種間で交雑をして出来た品種(一代雑種)のこと。雑種強勢により栽培面や品質面で利点が大きいため、流通している野菜はほとんどF1品種である。なお、F1同士の交配でできる種子は性質がバラバラになるため、自家採種をしても同じ性質の種を採ることは期待できない。
 この他、品種に関連する用語には、「固定種」や「マーカー育種」などがある。
 固定種(在来種)とは、その地域で昔から作られ、長い時間をかけて選抜を繰り返して根付いた品種のことである。自家採種による確保が一般的で、市場に出回ることは少ない。
 「マーカー育種」とは、作物の有用形質を支配する遺伝子のゲノム上の位置であるDNA配列を目印として利用する育種方法。従来の育種に比べて短時間で作成できる。


「サカタのタネ」って、どんな会社?


今回は種苗業界の話だけでなく、同社の創業のきっかけや求められる人材についてもお聞きしました。

―御社は「苗木の輸出から始まった」と伺いましたが、本当ですか?
 そうです。創業者の坂田武雄が、土地にゆかりもない横浜の地で苗木の輸出を始めたのが始まりです。
 そもそも種苗業界はとても古い産業ですが、当社は創業してから103年。もっと古い種苗会社があるように、決して長い訳ではありません。言い換えると、野心を持った若者がベンチャー的に始めた会社です。創業者は、帝国大学農科大学実科(現:東京農工大学農学部)を卒業後、当時の農商務省の海外実業練習生(※2)としてアメリカで苗木事業の実務を学びました。帰国後、儲かると思い始めたのが苗木の輸出。併せて、欧米向けにユリの球根を輸出していました。当時、ユリの球根は生糸と並んで国の特産品だったので非常に良い商売だったと思います。しかし苗木輸出の方は思うように業績が伸びず、種子に転換しました。

―成り立ち以外に他の種苗会社と違う点はありますか?
 スタートから海外を意識していたということですね。国内だけでなく日本から海外に向けてビジネスをしていくという、グローバルな視点が大きく異なると思います。

―海外に多くの拠点をお持ちなのは、大企業だからこそ出来るのでしょうか?
 「大企業だから」というのは、あまり関係ないかもしれません。当社は創業して8年目の1921年に、シカゴに支店を開設しています。その2年後、1923年に関東大震災が起こり社屋焼失等の影響のためシカゴ店は閉店しましたが、現在では、海外15か国に拠点があり、種子を供給している国は170か国以上にのぼります。

―それだけグローバルだと、入社時に英語は必須でしょうか?
 そんなことはないですよ。英語が話せる事はアピールポイントになりますが、あくまで人物本位で採用しています。当社の理念である「品質・誠実・奉仕」に沿う方がベストですね。

―どのような学部出身の方がいますか?
 研究・技術系は農学部系の出身者が多いのですが、営業・事務系は学部・学科を問わず募集しています。ちなみに私が配属されている広報部には私を含め4名の社員がいますが、うち2名が文系です。部署を問わず生産現場へ行く機会は多いですし、農業に興味がないと楽しくないと思います。廊下を歩いていると、けっこう日焼けしている人が多いですよ。私もそうですが(笑)。
―広報部の方も現場へ行くのですね!
 実際に畑へ行って植物を見ないと分からないことも多いですからね。プレスリリースを書いたりメディアから問い合わせがあったときも、その経験があると、より深く伝えることができます。私は中途採用でここへ入社しましたが、植物はもちろん、利用方法や生産者の方々にも興味があるので、積極的に様々な現場へ行かせてもらっています。

―大無田さんは種苗の世界に入って、どのようなイメージを持たれましたか?
 楽しくて面白い!種苗はとても可能性がある業界だと思います。極論を言えば、種が無くなれば食べ物が無くなります。種は生きていく上での必需品だと思いますし、とても魅力的な素材を扱う職業ですね。

(※2)海外実業練習生

 明治政府が始めた補助金を支給して国内の産業を強化するために海外で実業を学ばせる制度。多くの実業家を輩出した。

リンク

 株式会社サカタのタネ
⇒ https://www.sakataseed.co.jp/


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